【短】ぜんぶ、夏のせい





だけど。



「今、逃げようとした?」


「……」




彼の手がゆっくりと私の頭に乗った。




「逃げられないだろ」


「……」




ふわりと優しく、髪を撫でられる。




「だっておまえ、俺のこと好きだもんな」


「いいえ」



そうは言っても、逃げられなかったのは事実だ。


頭は逃げることを強要したのに、体が逃げることを拒否したのだ。




「ほんと、可愛いなぁ」


「……何がしたいんですか」


「だから、俺らが恋人だということを思い出させたいんだって」


「いや、そもそも」


「!」




なぜか彼が驚いた顔をした。


そのせいで言いにくくなってしまったけど、言わせてもらう。




「……そもそも、私イケメン嫌いなので」


「………そもそも嫌いだったら俺と話さなくね?」


「そもそも話さないという道をあなたが潰しているじゃないですか」


「そもそも俺のこと気になってるくせに」




煽ってくる物言いに、怒りがこみ上げた。