清水家の奥様が帰った後、私たちは居間のソファーで珈琲を飲みながら、さっきの余韻に浸っていた。

私が珈琲を一口飲んで、そのカップをソーサーに戻した時、悟と目が合った。

「美緒」

「ん?」

「…あの武井病院の院長の、娘?」

少し言い淀んだ悟だったけど、彼は言葉にした。

「…うん。隠しててごめん」

「いや」

彼は、何でもないというニュアンスで言った。

「言わなかったのは、偏見で見られるのが嫌だったんだろ?」

彼は『隠していた』という言葉を使わなかった。

「多分…」

「あ、そうだね。2年前の美緒は…か」

「でも、今なら知られても大丈夫だと思ったよ」

私はそう言って微笑んだ。

「ああ、大丈夫。美緒は美緒だよ」

悟も笑い返してくれた。

ただ、その笑顔の裏では、今後の私との関係が簡単なことではないとはわかったと思う。

私は武井病院の院長で理事長の一人娘。

父は、後継者に選んだ医者との縁談を進めてくるのはわかっている。

勧めるじゃない。

進める、だ。

あの事故のせいでうやむやになっているけど、年齢的にもそんなに時間はないと思う。