一学期の期末テストが、目の前に迫っている。
テスト期間中は、部活も休みになったりなんかして
普段とは違う時間の動きに
ちょっとだけそわそわする。

「あー、古文めんどくせー」

今は、目の前に座る大希くんの独り言も
全部まる聞こえ

「ねぇ、テスト勉強って、してる?」

そして、独り言のあとには、大概後ろを振り返る。
この人の前の席が、この人とと全く交流のない
異次元男子でよかった。
そうじゃなきゃ、絶対にこっちを振り返ったりしない。

「してなくはないけど、してるとも言い難いし
 なんと返事を返していいのか
 分かりません」

「…………」

とても優しいこの人は、
会話の間も大切にしてくれる。

「あぁ、分かった。もういいよ」

そして、理解力もある。

「横山さんは、きっと成績がいいんだよ
だからそんな返事なんだよねー」

出たな、一樹、
私はお前が本当に嫌いだ。

「てかさ、大希、この席ハズレじゃない?」

「なんで?」

「孤立席だよな」

確かに窓際の席だから、彼の右側には人がいない。
しかし、前後、右、斜めも含めると、5人に囲まれているのに
孤立席とはなにごとか。

「おかげで、勉強に集中できるよ」

すぐにこういう台詞が出てくるなんて、
やっぱり、この人は、お前とは違う。

一樹が、私を見下ろす。

「まー、後ろが横山さんだったってのが
 唯一の救いかな」

そんな一樹を無視して、
この人は私に声をかける。

「ねぇ、英単語の意味調べ、してきた?」

この人がそうやって、私を必要としてくれるなら
一樹にはみせたくないが、この人にだけ
喜んでみせよう。

私は、取り出したプリントを小さく折りたたんで
この人に手渡す。

「うわ、なにそれ」

嫌そうな一樹の顔。
コイツには見せたくないという意図が
明確に伝わったようだ。

「はは、ありがとう」

でも、この人は笑って受け取ってくれたから
それでいい。

配られるプリント、
振り返って手渡ししてくれる時もあれば
背中越しに渡されることもある。

私はいつも、そんなこの人の
指先だけを見てる。

受け取る時の、触れそうで触れない指と指の隙間が
いつかうっかり触れてしまいそうで、
もしそうなってしまったら、そんな日は一日中、
きっとこの人の顔を見られなくなる。

「でもさ、ホント横山さんって
 変わってるよね」

一樹よ、お前に言われなくても
安心しろ
言われ慣れてる。

「顔は普通なのに」

私は心底、お前が嫌いだ。

「まだ慣れてないんだよ、俺たちに」

「は? どういうこと?」

私も顔をあげた。
慣れてないって、どういうこと?
私はこんなにも、
あなたのことを想っている。

「だって、松永とかには普通にしゃべってるんだぜ
 だけど、俺たちには、全然態度、違うだろ?
 ちょっとさみしーよな、そういうの」

は? 
は? は? は?

「えーなにそれ、やっぱ嫌われてんだ」

「ま、いいけどね」

この人の、優しい微笑みは
私の気持ちとは
全く異なる方向に作用してる。

「酒井の横とかだと、
 完全に無防備なのに」

「お前といると、身構えられる?」

「やっぱダメみたい」

この人が笑った。一樹も笑ってる。

違う、この笑いは
いくら私でも違うって分かる。

「ダメとか、どうして決めつけるんですか?
 そんなこと、どうして分かるんですか?」

「え? あー、もういいよ」

そう言って、一樹が逃げた。
この人まで、急いで私に背を向ける。

違う。

違う。

これは、何とかしなければ