そうやってにらみあったまま、
どれくらいの時間が経ったんだろう。

客観的には、たぶん数秒、
だけど、私たちにとっては
数時間経ってたかんじ

「それを、教えてくれるまで、
 絶対帰らないから」

「あーそうか、じゃあ
 一生ここにいろ」

ぎりぎりにらみ合ったままでも
この人の足は動かないから
私も絶対動かない。

「なんで分かってくんないの!」

「あの話しの内容で、何をどう分かれっていうんだ」

「あんただって、なに言ってんのか、
 分かんないし!」

「俺のは分かんなくていいの!」

「なんで!」

「なんでも!」

どうしてこんな展開になるんだろう
私は、この人と喧嘩がしたくて
ここに来たんじゃなかったのに

もういいや、こうやってにらみ合っていても
なにも変わらないし、
自分の言いたいことは言った。

この人が、何をどう思っていても
結果として、私は1人で歩いてって、
1人で電車のって、1人で帰ることに
変わりはない。

もういいや、帰ろう

いつまでも、ここにいたって
この傷は治らない

私は、この人に背を向ける。
薄暗い冬の帰り道
私の大切な用は終わった

反転して、ダッシュで帰ろうとした腕を
ぐっとつかまれる。

「好きだ」

この人は、私の腕をつかんだまま
私の背中に向かって言う。

「だから、どこにもいかないで」

振り返るのが、こわい。こわいけど、
それでも立ち止まって、振り返る。

私を見下ろすこの人は
そこから動いてはいなかった。

「教えてもらうまで
 帰らないんじゃなかったの?」

完全に動けなくなった私の腕から
この人の手がそっと離れる。
つかまれた腕の痛みが、
ちょっとだけじんじんしていて
それだけで、もうなにも考えられない。

「私も好き」

「うん」

長い沈黙
だけど、多分本当は
ほんの数秒

その時間が、奇跡

黙って立っていたら、
この人もしばらくそれを見ていたけど
色々考えて、困ったあげくに、
ついに動き出した。

「帰ろっか」

「うん」

並んで歩く。
黙ったまま、2人で並んで歩く。

こんなシチュエーション
前にもあった気がするけど、
それとは全然違う。

並んで歩く指先がぶつかって
あの人の手が、私の手をつかんだ。