私と席が近いときには、私とよくしゃべるけど
元カノの愛美と席が近くなっても、よくしゃべるし
結局、あの人の側にどんな人がこようとも
近くの席の男女としゃべる。
あの人は、そんな人。

そんなあの人の、特別な1人になりたいと思うのは
贅沢なことなのかな、
どうやったら、その一人になれるんだろう。
愛美ですら、守れなかったその場所を
私に与えられるなんて、想像も出来ない。

「はい、これ、生物のノート」

返却されたノートを、配る大希くんは、
実にそっけなく、私の机から立ち去る。

同じ教室のなか、
たったこれだけの距離で、
私たちの関係は、終わってしまうのだ。

私には、とてつもなく果てしなく感じるその距離を、
松永は、私とあの人に横たわるその遙かな距離を
たった一人で、やってくる。

「今日から、駅前のコンビニで
 肉まん始まってたよ」

そして、なんのためらいもなく話しかけ
私の前に座り込む。

「帰りに、寄っていかない?」

なんで、こいつはそんなことが
平気で出来るんだろう。
恥ずかしいとか、断られたらどうしようとか
そんなこと、考えもしないのかな。

私が顔を上げると、
松永は、眼鏡の奥の細い目を、
さらに細めて、私を見た。

「なに?」

「別に」

松永は、そこからどうでもいい話しを延々と始める。
私はそれを、聞いているふりをしながら、考える。
この誘いを、受けていいものか、悪いものか。

肉まんは、正直食べたい。
でも、松永と2人きりは避けた方がいいのか
誰か友達を誘って、複数で行くべきなのか
それとも、今日は断って、後でこっそり
一人で食べに行こうか……

「ねぇ、話し、ちゃんと聞いてる?
 全然聞いてないでしょ」

「ん、肉まんのこと、考えてた」

「あっそ! じゃあ、放課後ね」

私は、松永がうらやましい。
うらやましいんだよ、松永が。

昨日、愛美に向かって
『俺のこと、そんなに好きじゃなかったんだな』
って、言った、あの人が信じられない。
人に気持ちを届けるって、どうしたらいいんだろう。

放課後のチャイムが鳴る。
約束通り、松永がやってくる。

「帰ろ」

「うん」

教室を出るとき、偶然、大希くんと一緒になった。

「お、じゃあな」

「ねぇ、一緒に、肉まん食べに行かない?」

「は?」

この人は、不思議そうに、私と松永の顔を見比べる。

「え、でも」

「なんで? いいじゃない。
 前は、よく一緒に行ってたのに」

「あー」

この人は、不思議そうに、困ったように
私と松永の顔を見比べる。

その時、通りかかった担任が、松永を呼び止めた。

「お、松永!
ちょっと頼みたいことがあるんだ、
 来てくれないか」

松永が、渋々ながらも先生に連れて行かれたから
ようやくこの人も納得してくれた。

「じゃ、一緒に行く?」

「うん」

この人と、2人きりになるのは
本当に久しぶり。