暦の上では、秋が来たらしいが、
日中はまだまだ暑い。

大希くんは、一樹と2人で
校庭に備え付けられた蛇口を開け、
水をかけあって遊んでいる。

「いいよねー男子って」

紗里奈が言った。

「頭から水かぶっても、
 そのまま自然乾燥で
 授業とか出ちゃうんだから」

その風景は、正直にうらやましい。
キラキラと舞い上がる水しぶきが
出来損ないの虹みたいに光って
その光景を、さらにまぶしくする。

校舎の下から、
一樹が手をふった。

「あー、私も水浴びしたい」

紗里奈は、そう言いながら
一樹に手を振り返す。

教室に戻ってきたあの人は
水に濡れて、全身がびちょびちょ

「うお、なんか逆に気持ち悪りーぞ」

だろうね、とは思うけど、
肩に張り付く白いシャツのむこうに
透けて見える肌が
妙にエロくて、それはそれでよい。

「なんか臭う? 臭くない?」

「ううん、大丈夫」

今、この人は
私の目の前の席に座ってる。
濡れた体が気になるのか
自分で自分の体を嗅いでる。

酒井地蔵のところに、きららがいついて
きららと酒井くんが、微妙にいいかんじで、
なんとなく行きづらくなった私は
休み時間でも、自分の席から移動することが減った。
もちろん、この人と席が近くなったせいもある。

この人も、もともと自分の席から
あんまり移動しないタイプだから
話す機会も増えた。

大希くんが好きなもの、
スポーツ全般、特にバスケとロードレース、
ゲームは時々やるくらいで、
趣味は自転車の改造。

時々、興味を持ってるふりをして
この人が広げる自転車雑誌の記事に
質問したりなんかすると
とても喜ぶ。

1人で勝手に楽しそうに、
いつまでもしゃべり続ける。
私は、そんなこの人の、側にいるのが好き。

酒井地蔵さまを、最近はきららが独り占めしてるから
居場所のなくなった松永もやってくる。

松永は、この人と一緒で
自転車が好きだ。

だからきっと、
性格的には合わないようでも
仲良く話しができるんだな。

そんなことを考えながら
松永の顔をじっと見ていたら、
松永に怒られた。

「あのさ、そんなに人の顔、
じっと見ないでくれる?」

その台詞に、この人が笑ってくれなかったら
私に殴られてたぞ、お前。

授業が終わった直後の放課後、
この人は、大きなため息をついてから
私に、体を向けた。

「ねぇさ、あいつら最近、
 ちょっと怪しいよな」

この人の目線の先には、
一樹と紗里奈

「あいつら、つきあい始めたのかな」

「いや、それは聞いてない」

「だよな」

私の目には、ごく自然体で話す紗里奈と
ぎこちない感じの一樹。

「なんか、さみしくない?」

その言葉に、私はちょっとびっくりして
この人を見上げる。

「うらやましいの?」

「う~ん、それも、ちょっとあるかも」

紗里奈と一樹、
私には、なにがうらやましいのか
さっぱり分からない。

彼女が欲しいのなら、
この人には、誰よりも立派な彼女がいたのに

どうしてこの人が、
あんな出来損ないのカップルを
うらやましいとか、思うんだろう。

「駅まで、一緒に帰ろーぜ」

松永が来て、私とこの人に言った。

「うん、帰ろうか」

最近は、この3人で
一緒によく帰る。