そして、この酒井地蔵さま前の集会に
高梨愛美まで加わった。

「でさ、ラインで話してたらさ、
 もうずっと止まらなくて……」

なぜこんな話しをここでするんだろう。
私には、返事のしようがないし、
紗里奈と松永は困ってるし、

「きゃー、いいなぁ!
 私も、カレシ欲し~!!」

宇宙人きららは、異次元だし、

「あぁ……、だな」

一樹は、ぼーっと座ってるだけ。

愛美の、終わらないのろけ話を
きららはちゃんと聞いている。

私は愛美から、のろけ話で受けるダメージの
不意打ちテロへの警戒レベルを
最高域にまで引き上げて、厳戒態勢で挑む。

「でさ、大希がね……」

イラついてるのが、バレないように
教室の天井を見上げて
口をあけて、ボーっとしてる。
聞いてない、フリをする。

「……みなみちゃんと一樹、
 同じ格好してるよ」

笑われて、一樹は照れてるけど
私には、怒りしかない。
一樹は、この愛美ののろけ話を聞いて
一体何を想像してんだか

私には、嫌がらせでしかないのに。

「ちょっと、トイレ行ってくる」

「あ、俺も」

松永も立ち上がった。
助かる、さすが従者体質、立ち回りがいい。
松永と並んで廊下を歩く。

「あんなのろけ話しばっかり
聞かされても、困るよね」

コイツは、私があの人のことを
好きだって知ってる。

「うん、本気でつまんない」

私が、あの人のことを、
好きだって、知ってる人間が
私以外にいることが、
無性に腹が立つ。

「つまんない」

くり返す私の言葉に、松永は困っている。
だけど、今の私には、
こいつのその困惑に、構っている余裕はない。
これは松永の気遣いだと分かっていても、
イライラさせられる。

トイレの前で立ち止まった。
松永は、私を見下ろす。

「……あのさ、もう、ちょっと……
なんて言うか、落ち込んでるのは分かるけど、
横山さんもさ、早く……」

は? ちょっと待て
お前は、何を言うつもりだ!!
こんな余計なお世話を、
お前に焼かれる筋合いはない!

私は、松永の言葉を、遮るように
キッと顔を上げた。

「ねぇ!」

「お! お前ら、最近本当に仲いいよなー」

大希くんが、ひょっこり顔を出す。
そんな突然の状況悪化に、
私はこの場からすぐさま走りだして
逃げたい衝動を、
全力で押さえ込む。

「……そんなこと、ないよ」

松永は、答えられない私の代わりに、答えてくれた。
この人は、それをにやにや笑いながら
まるでからかうかのように言う。

「なんだよー、遠慮しちゃって」

泣きそうなのを、逃げ出したいのを
私は必死で、押さえ込んでいる。

「別にいいよな、仲よくたって」

「はは」

困ったように笑った松永の指先が
偶然、私の手に触れた。
反射的に、松永の手を思い切り振り払う。

この人が、松永が、びっくりして私を見てる。
こんなこと、するつもりなくても
体がいうことをきかない。

「ごめ……ん!」

もう、逃げるしかない。

振り返りもせず、駆けもどった教室には
それでもやっぱり、愛美がいる。
一番、嫌なヤツ、私の、逃げ場はない。

「……私も、みんなとカラオケ
 行きたかったな……」

は? 今、なんて言った??
私は、愛美のその台詞を
聞き逃すことが出来なかった。

きららは、笑ってる。
紗里奈も、愛想をふりまいている。

私は、発狂して、暴れたおして、突き飛ばしたいのを、
押し殺すのに、
最高レベルの労力を要している。

私はこんなにも、
悔しくてしょうがないのに!!

私の目の前で、愛美はため息をついた。

「はぁ、帰ろ」

疲れたように立ち上がった愛美にくっついて
きららと一樹も一緒に消えた。

やっと、取り戻した、私の居場所
台風が過ぎ去った後の
その破壊力は、計り知れない。

何もかもが、壊れそう。

「ねぇ、あのさぁ……」

「うん」

「私、高梨愛美が、嫌いなんだけど」

泣き出しそうな、私の声に
紗里奈は、静かにうなずく。

「うん」

「横山さんのこと、
 みんな、分かってるから」

酒井くんが、口を開いた。

「だから、心配しなくても
 大丈夫だよ」

酒井くんは、笑ってくれた。
それはもう、本物のお地蔵さまみたいに
穏やかな笑顔で。

松永が、教室に飛び込んでくる。

「横山さんは!?」

泣き出しそうな、私の顔を見て、
ほっとしたように、座った。

「あぁ、よかった」

「ごめんなさい。
 みんなに、心配かけて。
 あの時も、探しにきてくれて
 本当に、ありがとう」

ずっと言いたくて言えなかった言葉が
やっと素直に出てきた。

みんな、ゴメン。そして、ありがとう

早く、元気になるね