牽制球が効いている。
高梨愛美の先発予告。

テストの後にあった席替えのせいで
大希くんとは離れてしまった。

愛美があの人のところに行く。
いつものように、なにかをしゃべってる。
それが今は、聞き取れない。

あの人の態度はなにも変わらないから
これから何が起ころうとしているのか、まだ知らないんだし、
いつもと変わらない風景のはずなのに
それを見ているのが、とても辛い

「おっはよぉ~、みなみちゃん、
 今日も元気だね」

宇宙人きららが私の後ろの席についた。
私の隣は松永で、その後ろに酒井地蔵。

気づいたことがある。
きららとつき合っていると思っていた一樹は
めったにきららのところに
自分からは来ない。

「島崎さんってさ、渡部くんと
 つき合ってるのかと思ってた」

「やだー違うよぉ~
 よく言われるんだけどぉ」

なんだ、違ったのか、
今後の参考にしようと思ったのに。

参考? なんの?

「てゆーか、名前で呼んでよぉー」

うるさい、きらら。
彼氏持ちじゃないのなら
何の情報も得られない今のお前に、用はない。

「酒井くんわぁ
 なんの本を読んでんの?」

きららは、恐れ多くも
不動明王、酒井地蔵の手にする本を取り上げる。
さすが、大明神、それでも一切動じない。
本当に宇宙人。

「横山さん、顔が怖いよ」

酒井大明神の従者、松永に言われて
はっとする。

「そ、そうかな?」

慌てて、きららから顔を背ける。
背けたその視線の先には、
あの人と愛美のいちゃつく姿。
私には、絶対に入れない場所
乗り越えられない、壁。

「何を見てんの?」

松永が、私の視線の先をのぞき込む。
やめてくれ、
あの2人を見てるなんて
こいつらにはバレたくない。

「ん、黒板」

「黒板?」

「字が、見えにくくなったなーと思って」

一切無言の不動明王をからかうことに飽きたきららが
愛美とあの人のところに向かった。

紗里奈は、この後キャンプの係別委員会があるから
男子の群にまぎれた一樹のところへ行って
なにか話してる。

保健係は、なにかと学校付属の備品準備が必要みたいで
大変そうだ。

「もうすぐ、委員会が始まるよ?」

松永は、私に声をかけた。
あぁ、そうだろうね、
私が見つめる遠い視線の先で
あの人と愛美が、立ち上がった。

「俺たちも、行こうか」

松永に誘われて、私も立ち上がる。

愛美はあの人と、並んで歩いている。
その場所は、いつも明るい。
愛美はとってもとっても楽しそうで
あの人は……

「だから、横山さん、顔が怖いって」

またそう言われて、松永を見上げる。

「もしかして、気分悪いの?」

気分が悪いのかと言われれば、確かに気分は悪いが、
そんなことじゃない。

「違う、と、思う」

松永は、ため息をついた。

「キャンプとか、横山さんのタイプじゃないかもしれないけどさ
 まぁここは、学校行事だから、頑張ろうよ、
 それに、3日間だけだし……」

「そぉ~んなこと、ないよねぇ!
 ほら、みなみちゃん、笑って笑って!」

きららは、不意に私の頬を両手で挟んで
ぐりぐりとこね回す。

「せっかくの楽しいキャンプなのに
 美人が台無しだよ?」

きららが笑った。松永も笑う。
楽しいキャンプ? 美人?
日本語不成立の台詞に
どんな意味があるんだ。

「あ! 酒井くんも笑ってる!」

なに? 石地蔵酒井が笑っただと?
きららの言葉に、急いで振り返ると
酒井くんが、本当に笑ってた。
しかも、こっそりと。

「きゃあ! 楽しいキャンプになりそうだね!」

この思考回路の繋がりが、さっぱり分からない。

宇宙人きららは、やっぱり宇宙人だった。