好きな人がいる。
その人は、同じクラスの男子で、背が高くて、かっこよくて、
スポーツ刈りの、つんつん頭で、鼻がすっと高いくせに
色が白くて、ちょっぴり筋肉質。

みんなからモテる、と、思う。
名前は、川本大希。
 
きっかけは、たまたま理科の実験で向かいの班になったこと。
さらさらとスプーンから流れ落ちる薬品の
その落ちていく白い粉末を見ているうちに、
ぐるぐると回すガラス棒のその手つきから、目が離せなくなった。

溶けていく薬品の粉と一緒に
私も溶かされていったんだと思う。

話したことはない。

ただ、気づけばずっと視線であの人を追いかけていて
時々目があったりなんかして、
そんな時はやけにイライラして
どうして自分が、こんな風になってんだろうって、
それで、『あぁ、私はこの人が好きなんだ』って気づいた。

朝、教室に入ると
それとなくあの人の席をチェックする。
ほぼ毎朝、私の方が早く着く。
自分の席に座って、教科書とかを片付けるふりをしながら
登校してくるのを待つ。

あの人はいつも、誰に向かって言っているのか、分からないような小さな声で
クラス全体に向けて、こっそり挨拶しているのを知ってる。
今日もまた、入ってくるなり小声で言った。

「おはよー」

にぎやかな教室、
そのまま友達男子のところに合流するあの人に
私は心の中で、返事を返す。

「おはよー」って。

だって、誰も返事してあげなかったら、かわいそうでしょ?
だから、私だけが、返事をしてあげるんだ。

それから、同じクラスで、親友の紗里奈と話す。
ドラマの話しとか、イケメン俳優の話しとか、いろいろ。

「ねぇ、今度さ、須田クンの新しい写真集がでるんだって!」

「あー、それ要チェックだね」

「帰りにさ、本屋よってかない?」

「いいねー、行く行く」

ふと顔をあげると、
私のあの人に、女が近づいてくる。
にこにこ笑って、平気で男子の輪の中に入っていってしまう。

高梨愛美、私の宿敵。

だけど、そう思ってるのは、間違いなく私だけ。
だって、彼女とも、まともに話したことないもん。

愛美は美人だ。しかも、かわいい。
長い黒髪を自慢げになびかせて、目も鼻もキュッとしてる。
話し方もきびきびしてて、流行にも敏感。
だから、ああやって男子も普通に受け入れちゃうんだろうな。
あぁ、愛美の友達の、きららも加わった。

クラスの、いわゆるイケてるグループ。
スクールカーストのトップに君臨する彼らに、
こんな底辺組の私が
何を挑戦しようというのだろう。

あぁいうのは、横から黙って眺めているもんだ。
見て、楽しむ。それに尽きる。

「でさぁ、今度、Pボーイバックのアルバムが……」

紗里奈との、楽しいおしゃべりは続いている。

今日も通常運転。
楽しい学校生活の始まり……の、はずだった。