台風が来てるのは知っていたが、これほど激しい雨が降るとは予想もしてなかった。
空き地にライトバンを停めると僕は、ラジオをONにして買ってきていた缶コーヒーを開けて一口飲む。
すっかりぬるくなっていたが、無いよりましだった。
車を動かして自販機まで行く気力は、今の僕には無かった。
煙草に火をつけて吸うのも億劫な位なのだから。
ラジオは、幸いニュースなどやっていなくて映画音楽を流していた。
夜中の雨の中でこういう気分でニュースなど聞きたくなかったから唯一の救いのような気がした。
僕は、その空き地で誰かと待ち合わせをしているはずだったが、それが誰なのかさっぱり思い出せずにいた。
有るのは頭の中に干し草でも突っ込まれたような感じだった。
それが、どんな感じかはそういう気分にならないと誰にも分からないだろうと思う。
僕は、すっかり中年になってしまいこうして長時間車に乗るのも疲れていた。
若い頃中年になるとどうなるのか等は考えなかった。
ふと思うのは若い頃の鮮明さとある種の傲慢さだ。
今では傲慢ささえ僕には好ましく思える。
図々しささえ好ましく思えるのだから。
弱気になったので無くて激しい雨がいけないのだと思うようにする。
予想しない激しい雨が全てを駄目にしてるように思うようにする。
そうしないと自分自身生きては行けない気分だったからだ。
ふと唇が熱くて煙草を根元まで吸ってしまってるのに気付いて緩慢な動作で灰皿に投げ込む。
灰皿の上で煙草がくすぶってまだ少し煙を出していたが、それも気にならない。
その時後ろのドアが空いて懐かしい声がしたような気がした。
しかし、後ろを見るとそんな事は起こって無かった。
相変わらず激しい雨が車を容赦なく叩きつけている。
僕は頭の中にある干し草を燃やしてしまいたいと思いライターを持って耳の辺りで火をつけようかと悩んだ。
馬鹿馬鹿しいと思いながらももしもそれで頭の中がスッキリするなら良いなと思えたのだ。
結局やらずにライターを助手席に投げた。
僕は、何かを待ってるのかも知れないしそれは、間違ってるのかも知れない。
しかし、頭の中に干し草が詰まっててそんな事はどうでも良くなった。
激しい雨がフロントガラスにも叩きつける。
いっそ、その雨でフロントガラスを破ってくれと強く願った。
了