ばいばい、津崎。



それから私たちは店を出た。外の空気は夜だというのに、もわっと蒸し暑い。


「剛、本当にありがとう。ご馳走さまでした」

お会計は剛が支払ってくれて「ほとんど私のお酒代だからいいよ」と言ったのに、夏のボーナスが出たからと1円も受け取ってくれなかった。

だから「今度は私に奢らせてね」と言うと、「じゃあ、高級焼き肉予約しとく」と剛は笑う。


本当に優しくて、剛といると穏やかな気分になれる。

剛は北千住から二駅先の三河島(みかわしま)に住んでいて、数年前に25年ローンで一軒家を建てたけど、まだ遊びに行ったことはない。


「悪いな。北千住で待ち合わせして。大宮まで遠いだろ?」

「一時間もかからないから遠くはないよ」

満員電車はうんざりだけど、電車自体はべつに嫌いじゃないから移動も苦ではない。


「電車の時間は?俺のほうあと6分でくる」

私たちが飲んでいた居酒屋から駅は目と鼻の先にあって、ゆっくり歩いても3分あれば着いてしまう距離。


「私はちょっと飲みすぎたから風に当たってから帰るよ」

また気分が悪くなったら最悪だし、通勤ラッシュのピークは越えているけどまだ混んでいる時間帯だから、時刻をずらしてできれば座って帰りたい。


「大丈夫?急いでるわけじゃないし付き合おうか?」

剛は本当に優しすぎる。この人の良さで、いつか詐欺にでも引っ掛かってしまうんじゃないかと不安だよ。