食卓テーブルにはトーストに半熟たまごの目玉焼き、海ブドウのサラダ、冷たいミルクが並べて置かれている。


起き抜けで喉がカラカラだったオレは自分の席に座って、ミルクをぐびっと飲んだ。


「お母さん、兄ィニィ起こしてきちゃん」


キッチンに飛び込んで行った翔琉が赤色のエプロンにひっ付くと、「ありがとう」とその頭を撫でて振り向いた母さんと目が合った。


「おはよう、結弦」


「おはよう」


「ねえ、結弦。急で悪いんだけど朝ごはん終わったら、ちょっと頼まれてくれない?」


と、キッチンからいそいそと出て来た母さんは食卓テーブルの上に八重山藍染の風呂敷を広げ、その上に3段の重箱弁当をドンと置き、手際よく包み始めた。


「これ、お父さんに届けて」


「えーっ! なんでさーっ!」


あからさまにウゲーとでっかい声を出すと、母さんの横で翔琉が小さな肩をびくっと弾ませた。


「オレ、今日や律と約束あるんだしさあ!」


と、言っても昼頃の約束だけど。


「診療所に行っとったら遅くなってしまうしさ! 母さんが行けばいいさ!」


ブーブー文句をたれるオレには脇目もくれず、母さんは再びキッチンへ戻り、せっせと片しながら言い返して来た。


「母さん、これから民宿に行って、おばあちゃんたちの手伝いすることになったのよ」


翔琉もキッチンに行って、金魚のフンみたいに母さんの周りをうろちょろしている。


「えー、なんでね?」


「今朝からフェリー動いてるんだって」