吸血鬼が主を得るとき、対象に恋させることが手っ取り早い。


体面上は主従関係になるが、恋した相手を死なせたくないと思うのも人の心というものだ。
 

だから、真紅が自分をすきになってくれるのなら、それを利用して真紅を生涯の主に出来るかもしれない。


……そんな邪な思いが身の内を過って、しかし頭を振った。


駄目だ。俺はこの子を失いたくない。


失いたくないから、離れていなければ――離れなければ。
 

憧れた少女。


生きて恋して、自分じゃない生涯の伴侶を持って、その人との子を授かって、憧れた生き方をしてくれ。


そして最期の時だけ、俺のもの。
 

最期に手をつないでいるのは、俺だ。


(それだけの約束があれば、俺は生きていけると思うんだ)
 

もしも今、自分の中にある感情に名前がつくのなら。
 

感情に名前がつく前に、ここを去らなければ。
 

……結ばれない多くの恋の中に、今、沈もう。