誠は一つ息をついた。
「架のことはそろそろかとは考えていた。黎はここへ戻る気はないようだったしな」
「父さんっ、だから俺も跡継ぎとかは――」
「弥生。黎がここまで言ったんだ。お前ももう反対しないだろう?」
架は父の視線一つで黙らされ、その隣の弥生に言葉がかけられた。
「……ええ。黎がそう望むのなら、反対しないわ。美愛、いいかしら?」
弥生は嘆息気味に言って、最後は美愛を見て困ったように小首を傾げた。
一人不満顔を続ける美愛は、むぅと唇を引き結んでいる。
「レイがここを離れることは、桜城の人間でないわたしに言えたことはないと思うの。でも……ねえレイ? いつかその子と、レイも一緒にここで暮らせたりはしないかしら?」
美愛の言葉に虚を衝かれた黎だが、少しだけ眦(まなじり)を下げた。
「……そう出来たらいいな、とは、思っています」
……叶わないと知っている架は、唇を噛んでそっと視線を逸らした。



