好きになった人は吸血鬼でした。ーさくらの血契1ー【完】



美しい銀色の髪は一度結い上げられてから背中を流れ、足元まで伸びている。


纏っているのは着物だが、重そうには見えない。


腕にはそれこそ天女の羽衣のような領巾(ひれ)が巻かれ、その面差しは優し気な透明感がある。


瞳の色も、髪と同じ銀色だ。


(黎と似てる――)
 

その瞳の色と、黎の瞳の色。そして、黒藤の髪に混ざった銀。


「白桜様がお待ちでいらっしゃいますわ。真紅お嬢様、涙雨殿」


「あっ、は、はいっ。……えーと……?」
 

いきなりお嬢様なんて言われて面喰ってしまった。


「わたくしは天音と申します。白桜様がお生まれになった頃よりの配下(はいか)ですわ」
 

さ、中へ、と天音は導くように身を翻した。
 

真紅は肩口の涙雨を見た。


肯(うなず)かれたので、真紅は天音のあとに続いた。