「……そ、そそそそれはやめてほしいっ」


「今まで通りでいいの?」


「その言われ方が恥ずかしいだけっ!」


「でも、父さんや祖父にとっては、紅緒様は『姫君』だったよ? 未だにそう呼んでるし」


「……そういう時代錯誤なところは変えていこうよ……」


「そうかなあ?」
 

首を傾げる架。


……架の考えの根本は、総て『鬼人・桜城一族』なのだろう。


永く守って来た鬼人の血筋。だから黒藤を、『若君』なんて一般では聞かない呼び方も普通に出来るのだろう。
 

……架は真紅に好意的だし、黎とのことも背中を押してくれる。


自分を責めがちな真紅の状況ではありがたい人だが、いざ話してみると(家のことに関してのみ)若干常識に欠けているのが難点だ。


しかし、総てを求めることほど不毛なこともないだろう。


完璧な人なんていない。


(完璧、か……)