「黎明ののことは、俺も調べておく。こう言っては難だが、研究対象としては黎明のは貴重だから失うには惜しい。
……俺も黒も、黎明のを死なせる気はないさ」
唇の端に笑みを見せる白桜を見て、年齢にそぐわない自信が見えた気がした。
「…………あ」
ありがとう、と言おうとして、言葉はつかえた。
何かが違う気がしたのだ。
今、真紅が白桜に口にすべきは、それではない気がした。
「……さっきから白ちゃんが言ってる、『黎明の』って、黎のことだよね? どうしてそんな呼び方を?」
「ん? ああ……陰陽師の言霊は普通の人よりも、呪いに近い。黒は主家である影小路の者だから名前で呼んで構わないんだが、一応俺は別の流派だからな。
他家の者は余程関係が近くない限り、そういう通り名で呼ぶんだ。黎明のは、単に名前を文字ってだな」



