翌日、木曜日。忍の父に紹介される日まで、あと二日。
気持ちが落ち着くはずもなく、寝ても覚めても土曜日のことで思考を埋め尽くされる。

鈴音は、職場の更衣室で無意識に暗いため息をついた。すると、ちょうどそこに梨々花がやってきた。

「尋常じゃなく暗いんだけど! もしかして、例のストーカー? なんかあったの?」

梨々花は眉間に皺を寄せ、険しい顔で尋ねる。鈴音は、そういえば、そんなこともあったな、と山内の件が自分の中で薄れていることに驚いた。
そして、少し間を置き、ぽつりぽつりと話し始める。

「実は……なりゆきで結婚することに」

そこまで聞いて、梨々花は堪らず大きな声を上げた。

「はぁ!? 誰と! まさか、ストーカーとじゃないよね!?」
「当たり前じゃない!」

鈴音は即答で否定し、周りに誰もいないかを確認してから、梨々花に耳打ちをする。

「黒瀧さん! 彼、結婚を急ぐ事情があるとかで」
「は? いや、全然意味わかんないし!」

梨々花は訂正された内容も、まったく理解できない。それ以降は言葉が出て来ず、目を白黒させるだけ。
鈴音は、バツが悪そうな顔をして、一連のことを説明した。

「いや、向こうの理由はわかったけど、なんで鈴音なの? 私は見たことないけど、かなりのイケメンなんでしょ? 普通に彼女作って結婚しちゃえばいい話でしょ」

「うーん。彼女は……どう考えているのかわかんないけど。とりあえず、私を選んだのは、恋愛や結婚に興味ないから、後腐れがないっていう理由みたい」

「はー。なるほどね。大勢の女と遊びたいから、本心は結婚はしたくないんだ」

梨々花は腕を組み、さもわかったような雰囲気でそう言った。

梨々花の見解に、鈴音はなんだか腑に落ちないところではあったが、そうかといって明確な理由を説明することもできないので口を噤んだ。

勝手に納得した梨々花が着替え始めると、鈴音はふと思い出す。