「そんな私で、本当にいいんでしょうか……」
鈴音は足元を見つめ、合わせた両手に力を込める。
柳多は鈴音の横顔を目に映し、数秒おいて口を開く。
「おそらく――」
そう言ったあと、また黙り込んだ。
手を顎に添え、少し考えるような仕草をしてから、不安げな眼差しを向ける鈴音に今一度視線を合わせる。
「なにも知らないあなただから、副社長は決断したんだろう。一番理想的な相手だと思って」
「理想的?」
鈴音は訝し気に聞き返す。柳多は心情を表さず、真顔で続けた。
「欲深くなく、深入りしてくることもなさそうな、あなたが」
ほんの一瞬、瞳の色が冷たく見え、鈴音は寸時ぞわりと背筋を震わせた。
彼は温厚で聡明そうではあるが、それが逆に建前のようにも思えてしまう。
鈴音は、なんとなく空気を変えたくて、べつの話題を振った。
「あ、あの、幼稚な質問ですけど、黒瀧さんと柳多さんっておいくつなんですか?」
「副社長は三十三、私は四十になるよ」
「えっ」
忍の年齢も思ったよりも上で驚いたが、目の前にいる柳多のほうが衝撃だった。
「ぜ、全然見えません」
肌も綺麗で目立つ皺もなく、白髪だって見られない。体型も中年太りには無縁そうで、それこそ忍の実年齢前後に見える。
男性客の多いショップで働いている鈴音だが、忍や柳多のような容姿レベルの高い客はそうそういない。
「そう? もういいオジサンだよ。今日も、周りにどんなふうに見られているかヒヤヒヤした」
「そんな心配無用ですよ! どこからどうみても三十代前半です」
「まぁ、独身だからかな。多少若くは見えるのかもね」
「独身……」
(柳多さんもモテそうなのに)
何気なく耳にした『独身』の言葉に、思わず声が漏れる。
柳多は冗談交じりに言って笑った。
鈴音は足元を見つめ、合わせた両手に力を込める。
柳多は鈴音の横顔を目に映し、数秒おいて口を開く。
「おそらく――」
そう言ったあと、また黙り込んだ。
手を顎に添え、少し考えるような仕草をしてから、不安げな眼差しを向ける鈴音に今一度視線を合わせる。
「なにも知らないあなただから、副社長は決断したんだろう。一番理想的な相手だと思って」
「理想的?」
鈴音は訝し気に聞き返す。柳多は心情を表さず、真顔で続けた。
「欲深くなく、深入りしてくることもなさそうな、あなたが」
ほんの一瞬、瞳の色が冷たく見え、鈴音は寸時ぞわりと背筋を震わせた。
彼は温厚で聡明そうではあるが、それが逆に建前のようにも思えてしまう。
鈴音は、なんとなく空気を変えたくて、べつの話題を振った。
「あ、あの、幼稚な質問ですけど、黒瀧さんと柳多さんっておいくつなんですか?」
「副社長は三十三、私は四十になるよ」
「えっ」
忍の年齢も思ったよりも上で驚いたが、目の前にいる柳多のほうが衝撃だった。
「ぜ、全然見えません」
肌も綺麗で目立つ皺もなく、白髪だって見られない。体型も中年太りには無縁そうで、それこそ忍の実年齢前後に見える。
男性客の多いショップで働いている鈴音だが、忍や柳多のような容姿レベルの高い客はそうそういない。
「そう? もういいオジサンだよ。今日も、周りにどんなふうに見られているかヒヤヒヤした」
「そんな心配無用ですよ! どこからどうみても三十代前半です」
「まぁ、独身だからかな。多少若くは見えるのかもね」
「独身……」
(柳多さんもモテそうなのに)
何気なく耳にした『独身』の言葉に、思わず声が漏れる。
柳多は冗談交じりに言って笑った。



