休日の朝は、テレビをボーッと観ることが多い。

鈴音は、いつもよりも少し遅めに起き、遅めの朝食をとりながら、ぼんやりとワイドショーを見つめる。
有名人の熱愛発覚!という文字を眺め、箸を止めた。

(私、黒瀧さんと出会ってから、昨日で……一、二……四日目?)

よく、ニュースなどで、〝スピード婚〟という言葉を見聞きした。
出会って数か月とか交際ゼロ日で入籍をした、というような意味合いの言葉だ。

鈴音はそれに対し、批判する気持ちを持っていたわけではない。むしろ、なんとも思っていなかった。
きっとそれは、どこかで『自分には関係のないこと』だと思っていたからだ。

だが、どうだろう。まさか、自分が同じような状況になるとは想像もしていない。

(いや、でもまだ籍を入れたわけでもないし。もしかしたら、『やっぱり結婚の話はなしで』とか言われるかもしれないし)

すっかり冷めた味噌汁を見つめ、都合のいいことだけを考える。
すると、携帯が音を上げた。

「も、もしもし」
『オレだ。今日、休みって言っていたよな。予定は?』
「特に、ありませんけど……」
『なら、十一時頃に迎えが行くから準備しておけよ。父親に紹介したい』
「えぇっ! しょ、紹介って! そんなに急に!」
『最後まで聞けって。〝週末に〟だ。今日を入れて三日あるだろ』

(それでも、たった三日……)

『で、まぁべつに鈴音の服装やメイクは嫌いじゃないけど、初めが肝心かとも思うから、今日、色々準備してもらう』
「準備って……」

(好みもなにもわからないし、お給料もいいわけじゃないから、高価なものなんか買えない!)

『そういうことだから。じゃ、十一時に』

プッと呆気なく通話を切られ、しばらく携帯を見つめる。

本当は、朝起きた時、昨日のことは夢だったのではないかと思った。
けれど、今の電話でそんな思いもかき消され、今度は迷っている。

(私なんかが、彼の希望通りに奥さんを演じられる?)

大変なことを承諾してしまった、と項垂れてももう遅い。彼には恩があるうえ、自ら首を縦に振ったことは事実だからだ。

鈴音は、結婚に夢や理想はない。入籍自体は紙切れ一枚で済むし、鈴音にとって大きな問題ではない。
ただ……。

(お父さんに認めてもらえるのか……。それに、結婚したあと、私はどうすればいいの? 大体、結婚っていつまで続ける予定なのか……)

一切なにもわからず、途方に暮れる。
もう少し、きちんと詳細を聞けばよかったと深いため息を吐いた。

「ん? 十一時……? やばっ」

時計を見れば、もうすぐ十時になるところ。鈴音は座卓にガタン!と手を付き、勢いよく立ち上がる。
慌てて食器を下げると、バタバタと準備を始めた。