「警察」

その時、ぼそりと低い声が聞こえた。
山内は、一瞬で強張り、手を引っ込めて振り返る。同時に、鈴音も山内の奥へ視線を映した。

「あっ、あんたは……!」
「これ以上、彼女に付き纏ったら警察に連絡するぞ。ウチの顧問弁護士連れてな」

忍は上質なスーツを身に纏い、涼しい表情で淡々と口にしていく。
鈴音はまだ気がついていないが、カフェ店内の入り口付近にいる女性客は、忍に釘付けだ。

「だ、だって、どうせ嘘だろ? ローレンスの御曹司が鈴音ちゃんの彼氏だなんて」

山内がしどろもどろと抗議する。

鈴音は、なぜ山内は、忍がローレンスの御曹司だということを知っているのかと一瞬首を傾げる。が、すぐに、山内の方が先に忍の名刺をもらっていたことを思い出した。

「嘘? じゃあ、嘘じゃないってわかれば、キッパリ手を引くんだよな?」
「な、なにを」

忍は山内に言って退けると、鈴音の手を引いた。力強く引っ張られた鈴音は、つんのめってバランスを崩す。
しかし、忍がすぐに手を鈴音の腰に添え、支えたおかげで転ぶことはなかった。

急に引き寄せられて驚いていた鈴音は、反射で忍を見上げる。

すると、次の瞬間、顎に手を添えられ、忍にキスされていた。

山内はもちろん、店内の客がふたりを凝視する。けれど、鈴音は周りの視線を感じる余裕もなく、ただ、忍の爽やかな香りと長い睫毛、柔らかい唇に意識を奪われていた。

ゆっくり口を離した忍は、鈴音同様、茫然としていた山内に視線を向ける。そして、僅かに口の端を上げ、目を細めて言った。