契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました

東京に着いたのは夕方五時前だった。
マンションに連れられると、エントランスでちょうど柳多に遭遇した。

「お帰りなさい」
「……ただいま戻りました」

ぎこちない挨拶を交わしたものの、互いに心境は穏やかだった。

「無事に見つけられたんですね」
「まあな。ああ、ちょっと待っててくれ」

話の途中で忍の携帯が音を上げた。
鈴音は忍が電話に出ながら離れた場所へ移動するのを見送る。すると、柳多が口を開いた。

「訂正させてほしい」
「え? なんでしょうか?」

突然、真剣な面持ちで言われ、鈴音は正面から向き合った。
柳多は鈴音をまっすぐ見て言う。

「以前、きみは『自分が関係なくなる人間だからオレが個人的な話をした』というようなことを言っていたね」
「ああ……」

それは三日前。柳多と最後に交わした会話のときのこと。

「あれは違う。きみが『特別だから』話をした。彼の本当の結婚相手である鈴音ちゃんだから」

面と向かって『特別』と言われるのは、恋愛上のことではなくても気恥ずかしい。
うれしい気持ちには間違いないが、鈴音はまだ気軽に喜ぶ余裕はない。

軽く俯き、ぽつりと返した。

「……でも、まだなにも実感はないです」
「ああ。まだ知らないんだ」
「え?」

柳多は笑みを浮かべ、ポケットから出した携帯を操作し始める。

きょとんとしていた鈴音だったが、柳多に見せられた画面に映っている人物を認識した途端、目を剥いた。

思わず許可も得ず、柳多の携帯を両手で持って食い入るように見る。