契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました

忍は追伸のあとの空白が気になっていた。

あの日、鈴音は書こうかどうしようか迷っていた。しかし、最後の最後で怖気づいた。

マンションで忍と鉢合わせをしたら大変だと思ったのもあり、書き直すこともせずそのまま部屋を飛び出していったのだ。

最初で最後だから、伝えてみようかと一度は迷った言葉。
今、気持ちが通じたにも関わらず、改めて口にするのはなかなか勇気がいった。

だけど、鈴音も忍と同じ。

もうあんな思いはたくさん。

苦しみを繰り返さないためにも……そう思って、鈴音はすうっと息を吸い込んだ。

「……【好きです】」

忍の背中に小さい声を落とし、スーツの上着を力を込めて握り締める。

「あなたが好きです」

どちらの心音かわからないが、速いテンポで身体中を巡っていく。
忍はそっと距離を取った。

「なんか……緊張するな」

忍が視線を落とし、ぼそっと呟いた言葉に、思わず吹き出す。

「ふ。変なの。人前でキスしたって平然としていたのに」
「そんなこともあったかな。それより、この前の鈴音からのキスは衝撃的過ぎた」
「や! あれはもう忘れてください……」

情緒不安定だったとはいえ、大胆な行動をとった自分が未だに信じられない。
形勢は一瞬で逆転。鈴音は真っ赤な顔をして首を横に振る。

「無理だ」
「ひゃっ……」

瞬く間に鈴音は抱きかかえられ、視界が一気に高くなる。
空が近く感じたのも束の間、忍の顔が近すぎて軽くパニックを起こしそうだ。

忍は口元に緩やかな弧を描き、満たされた表情を見せる。

「忘れられないから、今オレはここにいる」

額をこつんとぶつけられ、柔らかな声で囁かれた。

「帰ろう。〝一緒に〟」