「う、わあ……」
思わず感嘆の声を漏らす。
駿河湾と富士山を展望できる景観は、想像以上に綺麗で圧巻だった。
『日本で一番美しく富士山が見える場所』と聞いていただけのことがある。
少し雲があり、富士山がくっきり見えないのが残念ではあるが、それでも十分登った甲斐があったと思えるものだ。
山頂にはちらほら人はいたけれど、東伊豆のような賑わいではない。
仲居の言う通り穏やかで静かな空気がそこにはあって、鈴音は大きく息を吸い込んだ。
(気持ちがいい)
こんなふうにリラックスをして深呼吸をしたのはいつぶりだろうか。
鈴音は閉じていた瞼をゆっくり押し上げていく。
黒く澄んだ瞳に、遠くの富士山を映し出して顔を引き締める。
(頑張ろう。立ち上がろう。
明日からまた、がむしゃらに働いて、食べて、寝て……そうだ。次の給料でこの間見つけたローレンスのリップを自分へのご褒美に買おう)
鈴音は清々しい空気を胸に、自分を激励する。
悲しい気持ちに引きずられないよう、この先待っている現実と、楽しみを想像して。
(大丈夫、元気にやっていける……。やっていかなきゃ)
心の中で何度も繰り返し、来た道を引き返す。
登りのときの緊張感が少し薄れていたせいか、小岩に足を取られ、尻餅をついた。
短い悲鳴を上げ、衝撃で目を瞑る。
打った箇所が痛い。それに伴い、せっかく忘れかけていた足の痛みも思い出す。
そして、身体の痛みに連動し、心の痛みにも敏感になってしまった。
「……痛」
ぽつりと呟くと同時に、地面に着いた手を見る。
左手の薬指が視界に入り、鈴音は余裕がなくなって、咄嗟に両手で顔を覆った。
こんなことは初めてで、三日経とうとしている今でも、どうしていいのかわからない。
誰かをここまで求め、欲し、乞う気持ちになったことなんかない。
思わず感嘆の声を漏らす。
駿河湾と富士山を展望できる景観は、想像以上に綺麗で圧巻だった。
『日本で一番美しく富士山が見える場所』と聞いていただけのことがある。
少し雲があり、富士山がくっきり見えないのが残念ではあるが、それでも十分登った甲斐があったと思えるものだ。
山頂にはちらほら人はいたけれど、東伊豆のような賑わいではない。
仲居の言う通り穏やかで静かな空気がそこにはあって、鈴音は大きく息を吸い込んだ。
(気持ちがいい)
こんなふうにリラックスをして深呼吸をしたのはいつぶりだろうか。
鈴音は閉じていた瞼をゆっくり押し上げていく。
黒く澄んだ瞳に、遠くの富士山を映し出して顔を引き締める。
(頑張ろう。立ち上がろう。
明日からまた、がむしゃらに働いて、食べて、寝て……そうだ。次の給料でこの間見つけたローレンスのリップを自分へのご褒美に買おう)
鈴音は清々しい空気を胸に、自分を激励する。
悲しい気持ちに引きずられないよう、この先待っている現実と、楽しみを想像して。
(大丈夫、元気にやっていける……。やっていかなきゃ)
心の中で何度も繰り返し、来た道を引き返す。
登りのときの緊張感が少し薄れていたせいか、小岩に足を取られ、尻餅をついた。
短い悲鳴を上げ、衝撃で目を瞑る。
打った箇所が痛い。それに伴い、せっかく忘れかけていた足の痛みも思い出す。
そして、身体の痛みに連動し、心の痛みにも敏感になってしまった。
「……痛」
ぽつりと呟くと同時に、地面に着いた手を見る。
左手の薬指が視界に入り、鈴音は余裕がなくなって、咄嗟に両手で顔を覆った。
こんなことは初めてで、三日経とうとしている今でも、どうしていいのかわからない。
誰かをここまで求め、欲し、乞う気持ちになったことなんかない。



