契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました

「私も、家族の事情は普通より少し特殊だと思っていたんですけれど……世の中、色々な境遇の人はいるんですよね……」

 明理と会って、自然と家族のことを思った。

 一緒には暮らしていないけれど、いつでも笑顔で迎え入れてくれる家族がいる。
 それは、どんな形の家族だったとしても、とても幸福なことだと改めて気づかされた。

「だけど、私は私が不幸だと思ったことはないし、それは彼女も同じでしたし。こういうことは、なにが正解かわかりませんね」

 なにが幸でなにが不幸なのかは、人それぞれ。
 鈴音は今置かれている環境にも、幸せを感じている。けれど、それは忍もそうだとは限らない。

「なにが〝いいこと〟なのか、自分のことなのにはっきりわからない。ときどき、ふっと怖くなるんです。選んだ道は間違っていないか……今立っている場所が合っているのかどうか自信がなくなって」

 それでも鈴音は、忍がほんの少しでも自分と同じような居心地のよさを与えられていたならいいなと思っていた。

(それは欲深い願いだな)

 鈴音が瞳を揺らしていると、忍ははっきりと答えた。

「正解なんてないだろう。どんな形でも、どんな関係でも。俺たちのことは俺たちが正解だ」

 なんて彼らしい回答だろうと、鈴音は目を見開いた。

「そうですよね……」

 それ以上はなにも言えなくなって黙り込む。

 沈黙がなんとなく気まずい。忍の顔を盗み見ても、なにを思っているのか読み取れない。ただ整った目鼻立ちの横顔を見つめ、思考を巡らせる。どうにか話を繋げたくて、苦し紛れに口を滑らせてしまった。

「指輪っ……」