契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました

 夜十時頃に忍が帰宅してきた。鈴音は忍の食事が済んだ食器を下げてから、明理から預かっていた封筒をそっとダイニングテーブルに置いた。

「なんだ?」
「実は今日、明理さんとランチをしてきました」
「明理と? どういうことだ?」

 訝し気な顔で聞かれ、鈴音は要約して説明した。
 忍は黙って話を聞き終えたあと、封筒を手に取った。

「まったく……学生が変な気を使って」

 溜め息をつきながらも、その顔は嫌気がさしているようには見られない。
 鈴音はこっそりと笑い、キッチンに立って片付けを再開し始める。すると、忍が鈴音を横目で見て言った。

「ランチまでしていたのなら、話はこれだけじゃ済まなかったんじゃないか?」

 勘の鋭い指摘に、つい手もとが滑って食器をシンクに落とす。割れはしなかったけれど、鈴音の動揺は明らかに忍に伝わった。

 鈴音は観念して口を開く。

「明理さんのご両親のこと……聞きました」

 その話を聞いたからと言って、差別的な目で見ることなどない。

 ただ、忍があえて話をしていなかったことだろうから、それを聞いてしまった自分へどんな気持ちでいるのかが気になるところだった。

「そう」

 けれども、忍の反応はたったひとことだけ。
 元々表情もポーカーフェイスだ。なにを思っているのかなんて、鈴音には到底予想もつかない。

 鈴音は黙り込む忍の前で、あとは自分の話をするほかなかった。