契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました

「そんなことないです。お義姉さんの誘いなら、兄は余程のことがない限り断らないかと思います」
「いや、でも……。う~ん……」
「絶対大丈夫です! その指輪がなによりの証拠ですもん!」

 歯切れの悪い鈴音に向かって、明理は前のめりで目を輝かせた。

 鈴音は『指輪』と聞いて、無意識に左手に視線を移し、ぽつりと尋ねる。

「この指輪がなにか……?」

 鈴音の問いに、明理は意気揚々と話す。

「それを選ぶまで、あの兄が苦慮していたみたいですよ。ブランドとかデザインとか。値段もあまり高価すぎたらお義姉さんが気にするかもとか。ショップで相当悩んでいたらしくて。そんな一面があるだなんて思いもしませんでした」

 鈴音は指輪にそっと触れ、絶句する。

 忍がわざわざそこまでして用意してくれていたと思っていなかった。

 デザインは店員のお任せとか、もっと言えば、ショップに足を運ぶのすら時間が惜しくてネットで購入した可能性まで考えたりもした。

「明理さんが、なぜそんなことを知っているの?」

 動揺する気持ちを抑え、平静を装いさらに尋ねる。
 明理は肩を竦め、上目でばつが悪そうに答えた。

「あ、すみません。実は、今日柳多さんに聞いてしまって。これまでの兄なら、そういう大事なものすらも、柳多さんにお願いしちゃいそうって密かに心配していたんです」

 柳多から入った情報なら、ほぼ間違いないだろう。

 鈴音はそう思うと同時に、自分へ警鐘を鳴らす。


 ――好きになってはいけない。彼は、あくまで契約上の夫なのだから、と。