「部屋に籠りがちだった私に、突然『練習台になれ』って言って、メイク道具を持ってきたんですよ。すごくびっくりしちゃって」
明理は小さな手を口に添え、くすくすと笑いをこぼす。
「練習って言葉通り、慣れないメイクを試行錯誤して私に施してくれました。でも、仕上がりはそこそこで、なんかその時間が面白くて自然と笑ってたんです」
鈴音は話の続きを耳に入れるたび、昔の忍を思い描く。
おそらく、今ほど落ち着きを持たない若かりし姿で、大きな手に小さなコスメを持って四苦八苦していたのかもしれない。
別に経営者側に立つ予定なのだから、自身でメイクができなくても仕事は困らないだろう。けれど、忍のことだ。やるからには真面目に本気で向き合っていたのが容易に想像できる。
鈴音が忍を思いながら明理に目をやると、彼女はとても柔らかな笑みをたたえていた。
「ふと兄を見たら、兄もうれしそうな顔をしていて。あの笑った顔は今でも忘れません」
「あ……」
思わず声を漏らしてしまったのは、すべての話が今、鈴音の頭の中で繋がったから。
最近、忍から将来の夢を聞いた。
彼はあのとき、なにかを思い出すように、懐かしむように頬を緩ませて口にした。
――『化粧をしてもらって、綺麗になった自分を見たときの喜ぶ顔が忘れられない』
それは、明理のことだったのではないかと鈴音は思う。
(うん。絶対、そう。)
きっと、妹のためになにか自分にできることはないかと考えて、メイク道具を用意したのだろう。
そして、そのときの経験を今もなお心の中にしまって活かしている彼を、心から素敵だと思った。
明理は小さな手を口に添え、くすくすと笑いをこぼす。
「練習って言葉通り、慣れないメイクを試行錯誤して私に施してくれました。でも、仕上がりはそこそこで、なんかその時間が面白くて自然と笑ってたんです」
鈴音は話の続きを耳に入れるたび、昔の忍を思い描く。
おそらく、今ほど落ち着きを持たない若かりし姿で、大きな手に小さなコスメを持って四苦八苦していたのかもしれない。
別に経営者側に立つ予定なのだから、自身でメイクができなくても仕事は困らないだろう。けれど、忍のことだ。やるからには真面目に本気で向き合っていたのが容易に想像できる。
鈴音が忍を思いながら明理に目をやると、彼女はとても柔らかな笑みをたたえていた。
「ふと兄を見たら、兄もうれしそうな顔をしていて。あの笑った顔は今でも忘れません」
「あ……」
思わず声を漏らしてしまったのは、すべての話が今、鈴音の頭の中で繋がったから。
最近、忍から将来の夢を聞いた。
彼はあのとき、なにかを思い出すように、懐かしむように頬を緩ませて口にした。
――『化粧をしてもらって、綺麗になった自分を見たときの喜ぶ顔が忘れられない』
それは、明理のことだったのではないかと鈴音は思う。
(うん。絶対、そう。)
きっと、妹のためになにか自分にできることはないかと考えて、メイク道具を用意したのだろう。
そして、そのときの経験を今もなお心の中にしまって活かしている彼を、心から素敵だと思った。



