契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました

「私、兄と半分しか血が繋がっていないので」
「えっ……」
「異母兄妹なんです。私が父の愛人の子で。中学一年のとき、生みの親に捨てられそうになった私を父が引き取ったんです」

 あまりにさらっと告白されて、鈴音はまだ頭の中が整理できない。

 このとき、自分の実家へ挨拶に行った帰り道の会話が脳裏を過った。
 鈴音が忍に『妹とあまり似ていない』と話したら、『さあな』と素っ気ない返しがきた。

(あのとき、忍さんはいったいどんな気持ちで……)

 言葉に詰まっていると、明理が気遣って明るい笑顔を向けた。

「正直に言うと、父に対してはやっぱりいい印象はありませんけれど、基本的には優しいので。まあ、それが不特定多数っていうのがそもそも問題なんですが。自分の父をこんなふうにしか説明できなくてお恥ずかしい限りです」

 こんな話までも冷静に説明できる明理の性格に、今聞いた生い立ちから納得する。

 自分も両親の離婚を経験しているけれど、母親は自分を大事にしてくれたし、捨てられるかもしれないだなんて不安を一度も感じたことなどなかった。

 捨てられた自分に手を差し伸べてくれたのが母と浮気していた光吉で、そんな人が自分の実の父親だなんて、いったいどんな心境だっただろう。

 同情なんて求めていないだろうとはわかっていても、明理への思いが溢れてしまう。
 明理は鈴音ににこりと目を細めて見せた。

「私は兄さんの母親も優しいし、幸せです。……でもきっと、兄さんが一番優しい」

 鈴音は忍の優しさがちゃんと明理に伝わっているようで、ほっとした。

「兄が一番初めに私を笑顔にしてくれたんです。私が黒瀧家に来てから……」
「そうなんだね」

 鈴音は忍のことを、ほぼなにも知らない。
 だから、中学からでも忍と一緒に過ごしてきた明理の話はとても興味深く、もっといろいろと聞きたい。

 鈴音の聞く姿勢を察してか否か、明理は窓の外を見つめながら不意に笑った。