契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました

 小洒落たカフェに入ったふたりは、ランチセットをオーダーした。
 先に頼んでいた飲み物がテーブルに置かれ、鈴音はそれをひとくち含んだ。

「兄はお義姉さんといても口数少ないですか? 家族とは必要最低限の会話しかない感じなんですよね」

 明理はグラスを引き寄せ、ストローをくるくると回しながら苦笑した。

「え? いや……きっと同じじゃないかな」

 鈴音は首を傾げ、出会った頃からの忍を思い出す。

 話はしても、それこそ明理の言う必要最低限のことだったし、それ以外に進んで話題を投げかけてくるようなタイプではない。

「そうなんですか? てっきりお義姉さんには違うものだとばかり」

(私だけ違うっていうことはないと思うけれど……でも最近それなりに会話はしているかな? まあそれも必要事項なだけか)

 視線を落として考えている間に、明理は話を続けている。

「家族の中では兄だけが無口なほうで。私はもっと話したいんですけどね。なんだか兄に距離を置かれている気がして」
「どうしてそんなふうに思うの?」

 寂しそうに笑って話す明理を見て、違和感が残る。

 確かにわかりやすい表現はしない人だけれど、忍は優しい。こんなに素直で可愛い妹なのに、忍が敬遠するような理由も思い当たらない。

 きっと、照れ隠しで素っ気ない態度を取ってしまっていて、それを勘違いしているのかもしれないと想像する。

 明理は鈴音の反応になぜか驚き、目を丸くした。明理の変化に、鈴音も不思議な顔を向ける。
 すると、明理が納得したように口元に笑みを浮かべる。

「やっぱり、兄はお義姉さんにも言っていないんですね」
「……なにを?」

 明理が急に深刻そうに言うものだから、鈴音はつい構える。

(『やっぱり』ってなんだろう?)

 知らぬ間に眉間に皺を作っていた鈴音に、明理はもったいぶることなくあっさりと答えた。