契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました

「お義姉さん」

 駅の改札出口を出てすぐ、明理が可愛らしい声で呼び、手を振る。

「あ、あの……その『お義姉さん』っていうのは……ちょっと」

 鈴音は明理の屈託のない笑顔を直視できなくて、目を伏せてぼそっと言った。

「だめですか?」
「あ、いや。だめっていうか」

 明理に心底悲しそうな瞳で見つめられると心が痛い。

 自分のしていることは、純粋な明理をも騙している。慕ってくれるのはとてもうれしいのだが、心から寄り添って接することが許されない気がして、堂々と顔を向けることができない。

「私、ずっと姉が欲しいって思っていたので、すごくうれしいです」

 そんなことを知らぬ明理は、気持ちを直球で伝えてくる。
 鈴音は良心の呵責に苛まれつつ、微笑み返した。

「今日は学校お休み? あ、というか、まだ学生さん……だよね?」
「ああ、そういえばそこまできちんとご挨拶していませんでしたね。はい。私は今十九でO大二年です。今日の講義は午後からだったもので……。本当、突然ごめんなさい」
「十九……! じゃあ、忍さんとはずいぶん……」

 思わず口をついて出た。
 見た目から若そうだとは思っていたけれど、パーティーでは堂々としていたし、二十歳は過ぎていると思い込んでいた。

 忍との歳の差は十四だ。それだけ年が離れていれば、きっと可愛くて仕方がないだろうなと想像する。

 明理は鈴音のような反応に慣れているのか、動じる様子もなく莞爾として笑った。

「お義姉さんともっと話してみたかったので、お誘いしてしまいました」

 鈴音から見た明理は、以前パーティーで初めて会ったときの印象となんら変わらない。
 今日は下ろしている背中まである長い髪は、黒髪のストレート。前髪は眉の少し上。目はくりくりとしていて愛らしい。

 そんな子に『もっと話してみたかった』だなんて言われると、照れてしまう。

「お義姉さんはなにが好きですか? まずどこかお店に入りましょう」

 年下の明理のほうがしっかりとしているように思えて、鈴音は肩を竦めながら明理の後をついていった。