契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました

 翌朝は意識的に早起きをして、忍に朝食を出した。

 忍が家を出るのを見送り、家事を終わらせたときに携帯が音を上げる。
 電話の着信音だとわかると、携帯を取りに行く間に着信主が誰かを無意識に想像する。

 基本的に、普段電話を掛けたり掛けられたりすることはない。

(梨々花は仕事のはずだし、実家からは早々掛かってこないし。仕事の用件で佐々原さんからとか……?)

 佐々原からの着信というセンが濃厚かと結論付くと、ちょっとだけ構えてしまう。
 昨日話は終わったはずだけれど、そう簡単に気持ちを切り替えられない。

 鈴音はカバンから携帯を取り出し、ディスプレイを見て凍り付いた。表示されているのは、登録外の携帯番号。
 山内のことは、まだ記憶に新しい。そのせいで、鈴音は警戒し、着信を取るのを躊躇った。

 それから三度ほど着信音を繰り返したあとに、電話は切れてしまった。
 手の中で静まり返った携帯には、【不在着信】と表示が残っている。鈴音はそれを見つめ、悶々とした。

 電話に出る勇気も咄嗟に出なかった。けれど、出なかったら出なかったで、相手がだれだったのか今すごく気になっている。

 いつまでも携帯に意識を囚われていると、再び着信がきた。
 思わず携帯を滑り落としそうになるほど驚いたけれど、表示されている名前を見て安堵した。

「もしもし」
『おはようございます。柳多です。今、お時間よろしいですか?』
「はい。どうかしましたか?」

 鈴音は相手が不明の電話とは打って変わり、リラックスした声で対応する。電話を耳にあてたまま、リビングへ向かった。

「もしかして、またなにかお届け物があるとか?」
『いえ。さきほど、別の番号から着信がありましたよね?』
「えっ!」

 柳多の言葉を聞いて足が止まった。

 なぜそれを知っているのかと動揺したけれど、柳多が絡んでいるということは、相手は山内ではなかったのだと安心した。

『実は、ある方がどうしても鈴音様とお話したいとお願いされまして。私の独断で、鈴音様の連絡先を教えてしまったのですが、よく考えてみたら警戒されるだろうな、と』

 柳多が説明するのを耳に入れながら、自分と話をしたいという人物が誰なのか思考を巡らせる。