契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました

「……忍さんは、こういうの嫌がるかと思っていました」

 なんとなく、縛られることが嫌なのではないかと想像した。
 もちろん、忍を縛るつもりなんて毛頭ないけれど、なんだか彼が窮屈なのではないかと一瞬感じてしまった。

 すると、忍がボタンを下まで外しながら答える。

「柳多が言っていたんだろう?」
「え?」

 咄嗟に顔を上げたものの、そのままワイシャツを脱いでしまいそうな忍の姿に、慌てて視線を逸らす。
 忍も鈴音を見ずに、身体を背けた。

「前に鈴音が言っていた」

 鈴音は首を傾げ、少し考えてようやくわかる。

「あ、ああ。夫婦っぽくする……っていう話ですか?」
「そう。指輪は一番簡単で効果的だろ」

 忍は開きっ放しのドアから廊下に足を踏み出し、淡々と口にした。ベッドの上で動かぬままの鈴音を一瞥する。

「一応、形だけでも式もしなくちゃならない。それについても少し話をしたいから、そのままそこにいろ」
「えっ……」
「寝るまでまだ少し話はできるだろ? 時間は有効に使わないとな」

 鈴音はベッドの上で正座して、ぽかんと忍を見る。けれど、忍は目を合わすことなく、浴室へ向かって行ってしまった。

「式……」

 想像はしていたけれど、実際にその単語を聞くと、『本当にするんだ』と呆然とする。
 結局今日も、鈴音は自室に戻るタイミングを逃し、忍の部屋で一夜を過ごしてしまった。