契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました

「……以前、柳多と服を買いに行ったことがあっただろう。アクセサリーも用意していたはずだ。そのときの情報を柳多が教えてくれた」
「あ……柳多さんが……」

 鈴音は拍子抜けした声でつぶやく。 忍がワイシャツのボタンに手をかけて言った。

「おかげで手間が省けただろう」

 忍は何の気なしに口にしたが、鈴音は軽くショックを受けた。

 忍の言いたいことは理解している。
 偽装結婚のために、わざわざ指輪を選びに店まで足を運ばなくても済んだだろう、ということだ。

 それは、婚姻届けのときも同じようなことを言っていた。

「なくてもよかったのに……なんて、そんなことは許されないですもんね」

 鈴音が苦笑を浮かべ、ぽろりと零す。

 どうせいつかは不要になるものなのに、このために費用も時間も無駄にさせた気がしてならなかった。

「どうしてもいやなら、普段はつけなければいい」
「そんなこと……。忍さんだってつけてくれているんですよね? それなら、私がつけないのはおかしいじゃないですか」

 忍に素っ気なく返され、どぎまぎとする。
 指輪をつけたくないわけではない。けれど、左手を見れば複雑な心境にはなる。

 鈴音は膝の上に置いた自分の手を見つめ、つぶやくように言った。