忍がおもむろに鈴音をベッドに下ろすと、僅かに眉を寄せた。

「ご、ごめんなさい。本当に」

 鈴音が忍の顔を覗き込む際、身体に掛けられていたブランケットにいまさら気づく。

「これ……忍さんが掛けてくれたんですよね? それだけで十分だったのに」

 鈴音はブランケットを手繰り寄せ、小さな声で尋ねた。
 同時に、忍の心遣いに胸が締め付けられる。

「そう思ったんだが、ソファから落ちるのが想像できてしまった以上、知らないふりできなくなって」

 痛みが少し和らいでから、忍は床についていた膝を離し、ベッドの脇に腰を下ろした。

「あの……指輪を眺めていたら眠ってしまって。こんなに豪華なもの、私にはもったいないなあって……」

 鈴音はもごもごと説明しつつ、ふと忍の左手を見て目を剥いた。忍の薬指にはシンプルなストレートのプラチナリングがはめられている。
 一気に夫婦を実感して、鈴音はドキドキし始める。

「鈴音の華奢な指に似合ってる。それに、そのくらいのものをつけていれば、客も憧れの対象になるだろう。そんな販売員が勧めるものなら、きっといっそう商品を魅力的に感じてもらえる」

 鈴音はネクタイを緩めながら答える忍の横顔をジッと見つめる。

「なに?」
「どうしてサイズがわかったんですか?」

 たまたまだという回答を予想していた。
 けれども、なんだか無性に聞いてみたくなって尋ねた。

 忍は数秒鈴音と視線を交わらせてから、ふいっと顔を戻した。しゅるっと音を立て、ネクタイを外すと、その場に立ちあがる。

 それから、ソファに脱ぎ捨ててあった上着の上にネクタイを投げ置いた。