翌朝。鈴音が目を開けると忍の姿は見えなかった。
 背を向けて寝ていたのだから、背後にいるのだろうと振り返っても、その姿はない。

(え? 今、何時?)

 昨日の失態がある。慌てて身体を起こし、目を細めて部屋の掛け時計を見る。
 時刻は六時半前だった。いつも六時過ぎに起きるから、そこまでの寝坊でもない。

 とりあえずホッと胸を撫で下ろしたあとに、ふと自分の位置に違和感を抱く。

「え……」

 自分の寝ていた位置を見て愕然とする。
 昨夜、眠るときにいた場所から随分と移動しているからだ。

 そこは、忍が寝ていた場所。自分の寝相の悪さを初めて目の当たりにして茫然とする。

(これじゃあ、広いベッドの意味がないじゃない)

 自分で自分に失望しつつ、よろりとリビングへ向かう。
 忍と顔を合わせることが緊張する。けれど、リビングにも洗面所にも忍の姿はなかった。

(もう出社したんだ)

 安堵したと同時に、緊張が解けて脱力する。ハッとして薬を確認すると、今日はきちんと持って行っているようだった。