「おーい。なんだ、お前ら、もう帰り?いいねぇ、学生さんは」


と、良いんだか悪いんだか分からないタイミングで石井ちゃんが現れた。
私はなんとなくホッとした気持ちで声のする方を向く。


「あ、あぁ!石井ちゃん!えー?車?なに?どっか行くのー?」


須賀の存在を無視する訳じゃないけど、さっきまでの自分の決心が中途半端で切れてしまい、気恥ずかしいから気まずいやらで、
チャリンと私の目の前に車のキーを出してきた石井ちゃんに縋る思いで返事をした。
そんな私に石井ちゃんは二カッと笑ってこう言ってきた。


「おう。これからちょいとN校までお使いってやつ?」

「えー?石井ちゃん、もしかしてパシリ?」

「んなわけねーだろ、俺はね、これでも優秀なのよ?だから、色々任されてんの。お分かり?この木魚女」

「ひっど!」

「つーか、神谷と須賀ねぇ…ふぅん?…お前ら、通り道だから、送ってってやろーか?」

「うっそ!マジで?!やったー!送って!送ってー!」

「はいはい。わーった、わーった。ピーピー騒ぐんじゃねぇよ。内緒だかんな?誰にも言うなよー?」

「うん!うん!」


今にも飛び跳ねたい気分な私に、石井ちゃんはポンポンと頭を撫でてくれて、それから少しだけ瞳を細めて私の後ろの須賀に声を掛けた。


「んで?そこの仏頂面のお前さんはどーすんだ?」」


その問い掛けに、滅茶苦茶トーン低い須賀の間髪入れない返答。


「や、やめとく。オレ一人で…」

「えー!須賀も乗ってけばいいじゃん!3人で帰ろ?」

「お前なぁ、これはお前の車じゃねーし、それに俺は帰るんじゃなくて仕事なんだよ。お前はついでだ、ついで!」

「えー?いいじゃん!わーい!石井ちゃんの車二回目だぁ!」