どれくらい、そこでそうしていたんだろう。
「美月!」
突然耳に届いた自分の名前。
「何やってんだこんなとこで!」
「……あ、旬さん……」
「"旬さん"じゃねえよ!」
旬さんは荒っぽい口調でそう言うと、あたしの体に黒いコートを掛けた。
「どうして、ここが……?」
「書き込みがあったんだよ。本郷の天使が、虹池で放心してるって」
「……ああ、そう……」
本郷の、天使。
間違いなくさっきの彼だ。
「イタズラかと思ったけど、美月がいねーって組の下っ端たちが捜しに出てんのも事実だったし、百聞はなんとかってやつで、来てみたんだよ」
「ねえ、それ投稿したのどこの誰?」
「ああ、それもじきにわかるだろ。とりあえず乗れ」
ハッキングなんて、組の手に掛かれば簡単か。
近くには黒塗りの車が停まっていて、あたしは押し込められるようにして乗ると、黒い革張りのシートに体をうずめた。
全身にまだ残る、不思議な熱を感じながら。