「えーと、冬菜ちゃん?」

あぁ、貝塚くんが不審がってる。
さっき夏樹くんと話してる時は、あの笑顔につられてか、もっと自然に表情が作れていたのに。

でも、今ここで私が何かを言えたとして、みんなはどう思うだろう。

普段一言も話さない私が話せば、ぜったい注目される。

何を言われるか……想像すればするほど、声が出なくなった。

「くっ、う……」

こんな生活、いつまで続くんだろう。
やっぱり、誰かと話そうなんて馬鹿な考えだったんだ。

無理に決まってることを、しようとするから苦しむ。

「おい、冬菜?」

なんで自分だけが、できないのだろう。
こんな当たり前のことなのに、私が弱い人間だからだろうか。

心が、石のように冷たく、空虚になっていく。

「っう……」

あまりの苦しさと悲しさに、小さく悲鳴を上げた。

そんな風に自分を責めて、灰のように消えてしまいたくなる。

大人になれば自然に治る、そう言われている場面緘黙症。

でも……こんなんで、本当に治るの?
あぁだめだ、また負のループに入る。
自分の気持ちを閉ざして、望まないって決めていたのに。

感情の扉を開けば、嬉しさや楽しさといった感情以上に辛い感情も心の中に入り込んでくるから嫌だった。