辱(はずかし)めは突然。
すべてのパフォーマンスを終えると、輪から空気が抜けていく。
マイクを手に、黒のシルクハットを逆さにし、観客にチップを求めるパフォーマーと、それにいち早く感づいた観客たち。なんとも形容し難い気まずい空気をぶち壊したのは__。
「これ、やってこい」
父が私に突き出すのは、1枚のお札。
「ちょっと待って、こんなに__」
「ええからはよやってこい!」
いつの間にやら奪い取られてしまった「絶対」。所詮、私が飼い慣らすことなんかできないイニシアチブは、ただ飼い主の元へと帰っただけ。
私は仕方なく、お札を掴んだ。
そこここで、財布を開く音がする。中には、行楽地の気の緩みか、お札を取り出す音もする。
でもこれは__色が違うじゃないか。
5000円あれば、何食分の食費になると思う?そもそも、今の芸が5000円に見合ってた?こっそり1000円札と取り替えてやりたいが、すでに周りの視線が痛い。
一瞬、ギョッとしたお兄さんの抱える帽子に、明らかに色の違うお札を入れた。
「あの、これは父が__?」
振り返って指差すほうに、すでに父(言い訳)はおらず、好奇の拍手に包まれて私は退散した。



