「王家が今のファーレンハイト家になるときにおこった戦争です。クレムラート家からも戦争に行った方がいたのでしょう。当時の王家軍が参戦するすべての戦士に贈ったとされるのがその柄にまかれた赤い布です。王家の紋章が描かれているでしょう」

「へえ!」


ディルクの口から出てくる言葉は、六歳のフリードには分からないことばかりだった。

だけど、それが逆にディルクの真面目さを物語っていた。子供だからと適当にごまかすわけではなく、ちゃんと自らの知識すべてを使って話してくれている。

フリードは妙にうれしかった。剣の柄にまかれたこの布にそんな意味があったとは知らなかった。
自分が見てきたものには、もっと他の意味があるのかもしれないと思ったらワクワクしてくる。

「じゃあこれはなんだ?」とそこらにあるものをすべてディルクに見せる。

彼は嫌そうな顔をしたままだったが、律義にフリードの質問に答えていく。しかし、博識なディルクも美術品には詳しくないらしく、絵画を見せると困ったように眉を下げた。


「それは……分かりません」


分からないものに対して知ったかぶりをしないディルクに、フリードは安心感も抱き始めた。
ただ高慢な男というわけではないと思えば嬉しくて、フリードは嫌がるディルクを無理矢理引っ張り込んで、埃の舞う床に座らせる。


「はあ、……フリード様も飽きませんね。空気も悪いし、そろそろ下りましょう」

「えー、もう?」

「体が痒くなりそうです。可能なら自分の屋敷に戻りたいくらいですよ」

「ここにいるのは嫌か?」

「屋敷にいれば勉強ができます。あなたの遊び相手をするよりはよっぽど有益だ」