**

 フリードが最初にディルクに会ったのは、まだ六歳のやんちゃ盛りだった。

一年前に両親が離婚し、母は出ていった。叔父のアルベルトも結婚して屋敷を離れていた時期で、当時のフリードには心を許せる人間がひとりもいなかった。

寂しいとか悲しいという感情をうまく言葉にできずに、ただ反抗することでしか感情を吐き出せないフリードを、家庭教師のゲルト氏は心配し、父親であるゴードン=クレムラートに相談した。

そしてゴードンが、屋敷に出入りしている貴族に歳の近い子息がいれば遊び相手に呼んではもらえないかと頼んだのだ。

当時、クレムラート家の当主はフリードの祖父だった。
彼の側近として屋敷に出入りしていた領内貴族は多くいて、その中の一人が、ディルクの父親であるドーレ男爵だ。


「はじめまして、フリード様。ディルク=ドーレと申します。以後お見知りおきを」


八歳とは思えぬしっかりした口調に、嫌々やって来たのだろうと思わせるふてくされたような顔で、ディルクはフリードの前に仁王立ちし、恭しく礼をした。背もその歳にしては高く、落ちついた表情はひどく大人びていて、纏う空気は冴え冴えとしていた。

明らかににじみ出ている不機嫌なオーラに、フリードは一瞬気圧されたものの、伯爵家の長男であるというプライドが彼を押し戻した。


「俺は、フリードだ」

「存じております。あなたと遊ぶようにと言われたのですよ。さあ、何をなさいます? かけっこですか? ボール遊びですか?」

「いや……」