円形のテーブルの向かいにある椅子をよせ、隣に並ぶようにしてからフリードを座らせる。そして自分も隣に座ってから彼を見上げた。


「とっても気になるんだけどね。それって私が聞いてもいい話なのかしら」

「なんだ今更」

「だって。よく考えたらさっきのトマスの不自然な誘いは、マルティナを遠ざけるためだったんでしょう? あんまり人に聞かせたくない話ってことよね? だったら私、聞いてもいいのかしら。ディルクは不快にならない?」


素直に気持ちを伝えると、フリードは肩を揺らして笑った。


「君はかわいいな。お転婆なくせにこういうときだけ殊勝になるんだから」

「もうっ、茶化さないでよ」

「わかった、わかった。……いつかは言うつもりだったんだ。問題ないよ。ディルクだって俺と君の間に隠し事が成立するとは思ってないだろう」

「そうかしら」

「そうだよ。大体、ここまで話して中途半端にしたら、君はディルクに対して挙動不審になるだろ? そっちのほうがよっぽど問題だ」


確かにそうだとエミーリアは思う。夫は予想以上に自分のことを理解してくれているらしい。


「じゃ、じゃあ聞くわ。他の人には内緒にするわね」


照れたように微笑みながら椅子を寄せてくるエミーリアを、フリードは愛おしそうな目で眺める。


「……ああ。何から話そうかな」


フリードは、美しい碧眼を天井のほうに向けて腕を組んだ。そして、予想以上に重い過去を話始めたのだ。