自分が思うよりずっと、コルネリアはこちらのことを見ていてくれるのかもしれないと思ったら、クラウスの前だというのに頬が緩んでしまうのを止められなかった。
クラウスは冷やかしに素直に照れるギュンターに目を丸くしつつ、右手で仰ぐ仕草をする。
「あー、暑い暑い。奥方の前だとギュンターもただの男だなぁ。……では、また落ち着いたら東の宮にきてくれ。絵を確認してほしいんだ」
「帰って来たばかりだからな。来週でいいか。その間に画家の情報を少し入手しておいてやるよ」
「頼んだぞ」
ようやく一安心したように、クラウスは護衛を引き連れて帰ろうとする。
と、現れたのはベルンシュタイン伯爵の奥方だ。クラウスが来たことを知って、早速晩餐の準備をさせ、客間を整えさせている。
「あら、もうお帰りですの? 夫もじきに帰ってまいりますわ。ぜひ今日はお泊り下さいませ」
「これは奥方。しかし今日はお忍びで来ましたので。また夜会を開きますから、王宮のほうにもいらしてください」
クラウスもギュンターの母は苦手なのだ。
そそくさと逃げ出し、ギュンターにだけ「頼んぞ」と念を押し、馬へとまたがった。
あの人を振り回してばかりのクラウスが、わざわざこんなところまで出向いてくるとは。
そこまでさせる自分の気持ちが恋だと、彼は果たして理解しているのだろうか。
策略家に見せていたクラウスの可愛らしい一面を知って、ギュンターは思わず笑ってしまった。
【Fin.】



