「どういうことなんだ? その画家がどうした」
「いや。君にも会わせただろう。俺が最近雇った絵師。彼が筆をとったきっかけの肖像画がある。それを書いた画家がベルンハルトというのだ」
「師匠なわけではないのか?」
「違うな。裏のルートで流れてきた絵らしい。美しい女性が描かれていてな。彼の父親がその絵に一目ぼれし、それを購入したそうだ。彼はその絵に近づけるようにと精進している」
「で? そのベルンハルトという画家を探しているのか?」
「いや、……うん。その。画家はどうでもいいんだ。……実はその絵の女性に会ってみたいと思ってな」
クラウスが目をそらしてごにょごにょと言う。
ギュンターは信じられないものを見るように瞬きをした。
「絵の女性って。……肖像画だろう? いつ描かれたものか分かっているのか? 当時美しい女性だって、年は取るんだぞ。今も生きているかなど分からないのだろう?」
「ああ。だから描いた画家を探すのが早いかと思ってな」
「その絵はどこにあるんだ」
「東の宮の、絵師に与えている部屋に飾ってある」
「だったら、最初に東の宮に行ったときに言わないんだ。そうすれば絵の確認だってできたのに。それを今更なぜ追いかけてきてまで……」
そこで、ギュンターは気付いた。
呼び出してからの一週間。どこまでもふざけた調子のクラウスが、帰ろうとすると手を変え品を変え引き留めようとしてきたことを。
それはまるで不器用な子供が、頼みにくい頼みごとが言えないときに似てはいないだろうか。



