「わざわざ何用なんだ? 俺は呼び出されてわざわざ東の宮まで行き、一週間も滞在していたはずなんだが、追いかけてまで伝えねばならない火急の要件でもあるというのか?」
「あーだから、言い忘れたことがあってさ。と、とにかく入れてよ」
「この部屋はだめだ」
「いいから、いいから」
火事場のクソ力なのか、ものすごい力で部屋の中に押し戻されたギュンターはよろけつつベッドにいるコルネリアを隠すようにクラウスの前に立ちはだかる。
「あー。奥方の部屋かぁ。ごめんごめん」
クラウスのほうは悪気なしだ。半身を起こした状態のコルネリアは、慌ててベッドから下り、ガウンを羽織る。
「お気になさらないでくださいませ。クラウス様、お久しぶりです。こんな格好で申し訳ありませんわ」
「いやいや。急に来たのはこっちだから。ギュンターが慌てて出て行ったから心配していたけど、大丈夫そうだね」
「ええ。今お茶を準備させますわ」
動き出そうとするコルネリアを、ギュンターが制する。
「君は寝ていたままでいいよ。クラウス、話があるなら別の部屋へ行こう」
「いや、ついでにコルネリア殿にも聞きたいんだよね。ベルンハルトという画家を知っているかい?」
「画家ですか? ……すみません、存じ上げませんわ。ベレ家に出入りしていた画家とは違う名ですわね」
「そうか」
クラウスはがっくりと肩を落とす。
ギュンターは不審に思いつつ、クラウスに椅子を勧めた。



