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やがて、庭のあたりから騒がしい音が聞こえる。馬のいななき、使用人たちのざわめき、なにかがあったのは明白で、ギュンターは名残惜しく思いながらもコルネリアを抱いていた腕を離した。
「なんだろう。騒がしいな」
「お客様でしょうか」
コルネリアと顔を見合わせていると、ルッツの素っ頓狂な声が廊下から聞こえる。
「えっ、クラウス様? どうしてここに」
「しっ、今日はお忍びだ」
部屋の中まで聞こえる声を出しておきながら、なにがお忍びだ。
ギュンターは眉間にしわを寄せたまま立ち上がると、足音を忍ばせて扉に近づき、一気に開いた。
「……何をしているんだ? クラウス」
廊下では、地味な色合いの服装に身を包んだクラウスが、ルッツの口を押さえて、突然開いた扉に体をびくつかせた。階下では、彼の御付きと思われる五人ほどの男たちを相手に、ベルンシュタイン家の執事がてんてこまいになっている。
クラウスはルッツを離し、さも何もなかったかのように笑う。
「や、やあ、ギュンター」
しかしギュンターのほうは笑えない。
くだらない愚痴を聞くために一週間も拘束され、ようやく帰ったというのに追いかけて来られたのだ。
お忍びとはいえ第二王子が外出すれば、多くの人間が振り回される。少しは周りのことを考えたらどうなんだと怒りに満ちた声が、喉元まで出かかっている。



