「いい話なの。実は……懐妊の兆しがあると言われました。貧血もそのせいだとお医者様はおっしゃってて」

「え?」

「だけど私、……前回の事があったから、またぬか喜びさせるのではと思って。……ごめんなさいね。伝えるのが怖くて、ちょうどあなたがいないときだったから、倒れたこと自体内緒にしようと思って。でも、二コラが伝えてしまったみたいだけれど」

「コルネリア」


過去の流産は別にコルネリアのせいではない。『最初から育つ力のない赤子もいる』と医者も言っていたはずだ。
けれど、伯爵家の跡継ぎを産めなかったことは、彼女にとって重い枷となってしまったのだろう。


「……また、流産したら。もう私ここにいる資格がないんじゃないかと思えて」


震える声でそれでも必死に続きを紡ごうと息を吸うコルネリアを、強く抱きしめた。コルネリアはしがみつき、肩を震わせる。ギュンターのシャツの胸のあたりが湿ってきて、泣くほど不安だったのかと思ったら、やはり留守にしていたことが悔やまれる。懐妊の分かったその瞬間に立ち会って、喜びも不安も分かち合ってやりたかったのに。

「大丈夫だよ」


髪を撫でながら、妻を落ち着かせるようにゆっくりと告げる。


「跡継ぎ云々はたしかに大事だけど。それより君が元気でいてくれることが俺には一番大事なんだ。辛いことは辛いと言ってくれ。俺はこれでも有能なほうだ。君の困りごとくらいすぐに片付けてみせる。頼むから……」


“もうひとりで我慢しないでくれ”


ギュンターは自分の声が震えてしまったことに驚きを隠しきれない。それはコルネリアも同じのようで、顔を上げて目を見開いた。