と、すっとコルネリアの指がギュンターの額をぬぐった。


「汗が。……急いで帰って来て下さったんですね」

「ああ」


汗をかいていることなど気にもしていなかった。
ギュンターは彼女の手を掴み、指先にキスをする。


「汚れるよ、コルネリア」

「ごめんなさい。拭くものが見当たらなくて。あなたこそ、着替えないと風邪をひいてしまいますわ」

「これくらいは大丈夫だよ。それにせっかく急いで帰って来たのに、まだ妻の喜ぶ顔も見れていないからね」

「まあ」


コルネリアは口元を押さえる。
コルネリアはよく、心配するばかりで素直に喜ぶことを忘れてしまう。
ギュンターは喜んでくれることが何よりも嬉しいことを知ってほしかった。同時に自分も大切なことを伝えていないことを思い出す。こんなにも急いで帰って来たのは、彼女に会いたかったからだと。


「俺も人のことは言えないな。……ただいま、コルネリア。君の顔が見れて安心したよ」

「わたしこそ、ごめんなさい。せっかく急いでくれたのに驚いてばかりで。……お帰りなさい、あなた。会いたかったわ」


ようやく見れたコルネリアの笑顔に、ギュンターの口もとにも自然に笑みがのる。


「どうやら俺たちは心配性すぎるようだね。エミーリアを見習わないと」


コルネリアの手元に広がる便箋をまとめながら、いつだって無邪気な妹を思い返す。

思えば太陽のような娘だった。
お転婆で向こう見ずで、散々人のことを振り回していたけれど、本人には全く悪気はない。
しかも、振り回されている者たちも、決して嫌ではなかったのだ。むしろ、エミーリアが放つ光を求めて、皆が集まっていたともいえる。
コルネリアも、エミーリアと一緒にいるのは楽しそうだった。

いつもその光に当てられていたギュンターは、自然に自らが相手を照らすことを忘れていたように思う。