「……ところでそれはなんだい?」
「あ、エミーリア様からのお返事ですわ」
「へぇ、エミーリアの?」
エミーリアは、ギュンターの三歳年下の妹だ。
コルネリアがベルンシュタイン家に嫁入りした次の春、隣のクレムラート伯爵家へと嫁入りした。今はそれから更に一年が経つ。
ギュンターは、妹の結婚に当時疑問を抱いていた。
ある日突然、クレムラート伯爵フリード候から、エミーリアのもとへ縁談の話が来たのである。いつもなら『お断りしてください』の一辺倒な妹が、あっさりとそれを了承した。
不審に思って問い詰めても、『あら、フリード様とは前から文通していたのよ? 私たち、愛し合っているの』などと、あっけらかんとした表情で恥じらいもなく言ってのけた。
ギュンターは内心、愛しているの言葉の意味は知っているかい? と聞き返したかったくらいだ。
それまで男の気配などみじんも見せなかったはずなのに、突然そんな話が決まるのはおかしい。
従者のトマスにそれとなく探りを入れてみたが、彼も断固として口を割らなかった。
しかし、両親も本人もこの縁談には乗り気で、家柄から考えても何の問題もない。ギュンターとしてはそれ以上口が出せなかったのだ。
気をもんでいるのを知っていたコルネリアは、エミーリアが嫁ぐ前から細やかな心配りをしてくれていた。
「エミーリア様、なにかあったらいつでもお手紙くださいね。私たち姉妹になったんですもの」
およそ筆まめからは遠い妹に対して、コルネリアは気遣いの塊のような性格だ。
嫁いでひと月たったあたりで、「そろそろ慣れられましたか」と近況を訪ねる手紙を書いたりと探りをいれては、ギュンターを安心させてくれていた。



